声を鍛える

朗読コラム

「朗読アカデミー 四季の森」 葛村聡子教室 講師の葛村です。

朗読は日本語を読むことが出来て、字を目で追うことが出来、それを声に発することが出来れば、誰にでもいつでも、どこにいても楽しむことが可能なジャンルです。他の稽古事のようにそれを習うために、例えばウエアやシューズを新しく買ったり、ラケットやクラブ、楽器などを用意しなくてもすぐに始めることが出来ます。朗読をする上で用意するものがあるとすれば、読み物、そしてなくてはならないものとして、自分の「声」ではないでしょうか。

私事で恐縮ですが、私は幼児期に小児喘息の持病がありました。小学校の高学年頃には完治していたのですが、喘息を治すために役に立ったことは、水泳と歌のレッスンでした。水泳では肺活量が増え、体が鍛えられ、歌のレッスンでは腹式呼吸を子どもながらにしっかり学びました。そして「声を出す」ということに興味を持ったのも小学生の時でした。

歌を唄う場合にジャンルにもよりますが、だいたい美しい声を持った人が得をするように思えます。では朗読ではどうでしょうか。これは私の持論ですが、歌でいうところの美しい声は、朗読において良い声とはいえないと思うのです。朗読をするための道具としての声は、味のある声こそが良い声といえるのではないでしょうか。なぜならば朗読はおおむね一人で一作品を読むことが多く、一人で読む何人もの登場人物が全て美しい声で読まれてしまうと、なんとも味気ないものになることでしょう。

それでは朗読をする上での声を味のある良い声にするには、どうすればよいのでしょうか。普段の何気ない人とのお喋りの声から、人に聴いてもらう読みに適した声になるにはどのように鍛えればよいのでしょうか。

私はそれにはまず、声よりも先に呼吸を考えることだと思います。

人間は生れた時に「オギャー」としっかりと腹式呼吸で第一声を発するそうです。それが成長とともに意識しなければ胸式呼吸になって浅い呼吸となり、喉に様々な負荷がかかって声帯が痛められていくことが度々あります。朗読は歌を唄うほど多くの息を必要としませんが、瞬時に丹田まで深い息を吸い、その息を使って発声をする。この腹式呼吸の基本が、味のある声作りの早道だと感じます。

次に声を発する声帯に目を向けてみます。音声クリニックの医師に言わせれば、人の顔が千差万別であるように、声帯も人それぞれ違うとのことです。それによって発せられる声も皆、違うわけです。「世界に一つだけの花」ならぬ「世界に一つだけの声帯(声)」を自分の宝物として、生涯大切にしたいものですね。
声の鍛え方、これは一朝一夕には習得できるものではありません。しかし体の柔軟体操と同じく、日々、声帯の周りの筋肉を鍛えることで、声という宝物は必ず輝きを増してくると思います。日常の単なるお喋りではなく、腹式呼吸を使った「朗読」を日々繰り返すことでしょうか。

「筋肉は裏切らない」という文言をテレビでスポーツトレーナーが言っていたのを聞いたことがあります。声もしかり、しっかりと自分の声に目を向けてあげれば、必ず朗読の強い味方として育ってくれると思います。
2020.12.22