“伝える”ために

朗読コラム

寒さの厳しかった冬もやっと終わりが見えてきました。
3月に入れば、桜の開花予想も出始め、和菓子屋さんの陳列ケースには桜餅が並び始めます。

お饅頭好きの私は、毎年桜餅を見かけると思い出すことがあります。
初めて関東に住んだ若かりし頃、桜餅が食べたいと和菓子屋に入ってみると、

桜餅がない‼

何日待っても並ばない!
3軒回ってもない!

勇気を出して店の人に尋ねると「ありますよ、桜餅。」と指さされたのは、

あんこをピンク色の小さいクレープのような生地で包んだもの。
??となりながら買って食べてみたものの??・・・

その1年後、とあるデパートの和菓子売り場で、
やっと私の知っている桜餅を発見した時のやっと春が来たような嬉しさ!
そうして、もち米でできた皮であんこを包んだそれが、
“道明寺”と呼ばれるものであることを知りました。

今ではいろんな情報が溢れ、
所変われば同じ名前でもものが違ったり、
同じものでも呼び名が違ったりすることはよく知られるようになりましたが、
当時の私には、かなりのカルチャーショックのひとつでありました。

では皆さん、
「関西の桜餅は、道明寺粉でできた皮であんこを包んだものです。そのもちもちの食感とあんこの甘さと桜の葉の塩味の絶妙なバランスが絶品なのです。」という文を、一度読んでみてください。

では次に、
自分が関東の和菓子屋の店先にいて、
店の陳列ケースの向こう側にいる人に話すつもりで、

体を起こし、
顔をあげて(この文が書かれているPCもしくは携帯電話を目線に持ち上げ)

もう一度読んでみてください。

どうです?

少し声の出方が違いませんか。

違いが感じ取れない場合は、自分で録音して聞き比べてみてください。
きっと違いが判ると思います。
それは、

身体的に言えば息の出る気道が塞がっていないからで、
精神的に言えば話そうという意識で声が前に出ているからです。

朗読する人は、
書かれている内容を聞いている人に伝えたいと思い朗読します。

伝えるために一番初めにすることは、

体を起こし、
相手に声を届けることです。

勿論、書かれている文字を見ないと読めませんが、
時々視線を文字から離して仮想人物に話すように読んでみると、
それだけで、伝わる声=息に乗った声になるのです。

私たちは、日常会話の中で、伝えるために無意識にいろんなことをしているようです。
朗読も話すように読めば伝わるのですが、書かれた文を話すように読めと言われても以外と難しいものです。
偉そうに言っている私も、自分では話しているつもりでも全然できてないと思うこともしばしばです。

話すようにとは具体的にはどういうことなのか、

いろいろ考えなければいけない要素があるようですが、
まずは、

伝わる声を出さねばなりません。

それにはまず姿勢、そして伝えようと思うことが大事です。

チャレンジしてみて下さい。

朗読アカデミー四季の森 井口朗読教室 講師 井口伊佐子